時効(行政書士試験対策)
令和元年度 問27 時効の援用に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものの組合せはどれか。
ア 時効による債権の消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるものである。
正しい
(チャットGTP)
この記述は妥当です。債権の消滅時効について、単に時効期間が経過しただけでは効力は確定せず、債務者が「時効援用」を行う意思表示をした場合に初めて法的に消滅が確定します。この考え方は判例(最判昭和61年3月17日)で示されており、時効援用が当事者の意思に委ねられることを明確にしています。
最判昭和61年3月17日は、時効援用に関する重要な判例です。
この裁判では、債権の消滅時効について、時効期間が経過しただけでは債権が当然に消滅するわけではなく、時効を援用する意思表示があって初めて債権が消滅するという法理が示されました。
具体的には、この事件では次のような問題が争点となりました:
事案の概要:
債権者が消滅時効期間が経過した後に債権の履行を請求したが、債務者がその際に「時効援用」を主張したケース
争点:
時効期間が経過した時点で債権は消滅するのか、それとも債務者が援用を行うことで初めて消滅するのか。
裁判所の判断:
最高裁は、「時効による債権の消滅の効果は、時効期間の経過とともに当然に生ずるものではなく、時効が援用された時に初めて確定的に生ずる」と明示しました。この判決は、時効が援用を必要とするものであることを明確にしたもので、日本の民法における消滅時効の原則を確認した重要な判例とされています。
この裁判は、時効の援用が単なる法的要件ではなく、当事者の意思に基づくものであることを改めて強調しています。
イ 時効の援用を裁判上行使する場合には、事実審の口頭弁論終結時までにする必要がある。
正しい
(チャットGTP)
この記述は妥当です。時効援用は当事者がその利益を受ける意思を明確にすることで効力を発生させますが、裁判上で援用を行う場合は、事実審の口頭弁論終結時までに援用する必要があります(大判大正12年3月26日)。これを過ぎると時効援用は認められません。
大判大正12年3月26日は、時効援用のタイミングに関する重要な判例です。この裁判では、消滅時効を援用するための手続きやその期限が問題となりました。特に、裁判上で時効援用を行う場合、事実審の口頭弁論終結時までに援用しなければならないという原則を示したことで知られています。
事案の概要:
この裁判では、債権の消滅時効が完成しているにもかかわらず、当事者が裁判上でいつまで時効援用を行うことが可能かが争われました。
裁判所の判断:
裁判所は以下のように判断しました:
時効援用のタイミング: 裁判上の時効援用は、事実審の口頭弁論終結時までに行う必要がある。
理由: 口頭弁論終結後に時効援用を主張することは、訴訟の公平性や迅速性を害するため許されない。
この判例は、訴訟手続において当事者の主張の適時性を確保し、法的安定性を維持するための基準を示しています。
意義:
大判大正12年3月26日は、時効援用が裁判上行使される場合の期限についての明確な基準を設けた判例として、消滅時効の実務運用に大きな影響を与えています。この基準は現在でも重要な原則として引用されることがあります。
ウ 被相続人の占有により取得時効が完成していた場合に、その共同相続人の一人は、自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができる。
正しい
(チャットGTP)
この記述は妥当です。最判平成13年7月10日では、被相続人の占有によって取得時効が完成していた場合、共同相続人の1人は自己の相続分の限度内でのみ取得時効を援用できるとされています。これは、時効の利益を受けるかどうかは個人の意思に基づくべきであり、時効援用の効果は援用者自身の利益に限定される「相対効」を原則としているためです。共同相続人全員に効果が及ぶわけではなく、援用者個人の相続分の範囲でのみ権利を取得します。
最判平成13年7月10日は、被相続人の占有に基づく取得時効の完成において、共同相続人の一人がどの範囲で時効援用を行えるかが争点となった裁判です。この判例は、取得時効に関する援用の効果が相続人間でどのように扱われるかを明らかにした重要なものです。
事案の概要:
被相続人がある土地を占有していた間に、取得時効の期間が完成。
被相続人の死亡後、その土地について共同相続人の一人が取得時効を援用。
問題となったのは、その援用の効果が共同相続人全員に及ぶのか、援用者自身の相続分に限定されるのかという点。
最高裁の判断:
援用の範囲: 共同相続人の1人は、自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用できる。
理由: 時効援用は個別の意思表示によるものであり、その効果は援用者が直接利益を受ける範囲に限られるべきである。共同相続人全体に効果を及ぼすものではない。
相対効の原則: 時効援用は援用者と相手方との間で効力が発生する相対的なものであり、他の相続人に直接影響を与えるものではない。
意義:
この判決は、時効援用の効果が援用者個人の範囲に限定される「相対効」の原則を再確認し、相続における取得時効の援用の扱いを明確にしたものです。また、共同相続人間での権利関係に関する実務的な指針を示した判例として、相続法や不動産法において重要な位置を占めています。
エ 保証人や連帯保証人は、主たる債務の消滅時効を援用することはできるが、物上保証人や抵当不動産の第三取得者は、被担保債権の消滅時効を援用することはできない。
正しい
(チャットGTP)
この記述は妥当でないです。民法145条に基づき、物上保証人や抵当不動産の第三取得者も、被担保債権の消滅時効を援用することができます。判例(大判明治43年1月25日)も、時効を援用できる「当事者」とは、時効により直接利益を受ける者を指し、物上保証人や第三取得者もその範囲に含まれると解しています。したがって、保証人や連帯保証人だけでなく、これらの者も時効援用の資格があります。
大判明治43年1月25日は、消滅時効を援用できる「当事者」の範囲についての重要な判例です。この裁判では、時効を援用する資格が誰にあるのか、特に直接的な利益を受ける者に限定されるべきかどうかが争点となりました。
事案の概要:
被担保債権(抵当権が付された債務)について、物上保証人または抵当不動産の第三取得者が、債務者ではない立場で債権の消滅時効を援用できるかどうかが問題となりました。
裁判所の判断:
時効援用権者の範囲: 時効を援用できる「当事者」とは、時効によって直接利益を受ける者に限定される。
具体的な適用: 物上保証人や抵当不動産の第三取得者は、債務が消滅すれば抵当権が消えるため、直接的な利益を受ける立場にある。このため、彼らも「当事者」に該当し、時効を援用することができる。
意義:
この判決は、民法145条の「当事者」の解釈を具体化し、時効援用の範囲を明確にしたものです。物上保証人や第三取得者など、間接的に見える立場の者も、権利の消滅や制限解除により直接的利益を得られる場合には、時効援用が可能であることを示しました。
この判例は現在も、時効援用権者の範囲を判断する際の基準として重要な意義を持っています。
オ 主たる債務者である破産者が免責許可決定を受けた場合であっても、その保証人は、自己の保証債務を免れるためには、免責許可決定を受けた破産者の主たる債務について、消滅時効を援用しなければならない。
正しい
(チャットGTP)
この記述は妥当でないです。最判平成11年11月9日によれば、破産者が免責許可決定を受けた場合、その効果により主たる債務は強制的に実現されなくなるため、消滅時効の進行を観念できません。このため、保証人はその債務を免れるために消滅時効を援用する必要はありません。破産免責の効力が債務の保証人にも及ぶことが確認されており、時効援用は不要です。
最判平成11年11月9日は、破産者の免責決定が保証人に与える影響、および免責決定後の消滅時効の援用可能性について判断した重要な判例です。この裁判では、破産免責に伴う債務消滅と、保証人の義務がどう扱われるかが争点となりました。
事案の概要:
主たる債務者が破産手続を経て免責許可決定を受けた。
債権者が、その保証人に対して保証債務の履行を請求。
問題となったのは、保証人が保証債務を免れるために主たる債務の消滅時効を援用する必要があるかという点。
最高裁の判断:
破産免責の効果:
破産免責決定を受けた債務については、債権者が強制的に履行を請求することができなくなる。
このため、主たる債務については「権利を行使することができる時」から進行する消滅時効を観念することができない。
保証人への影響:
主たる債務が免責により消滅した場合、保証人もその債務を免れる。
保証人が免責を主張するために、主たる債務の消滅時効を援用する必要はない。
意義:
この判決は、破産免責が保証人にも及ぶ範囲を明確にし、保証人が主たる債務の消滅時効を援用しなくても義務を免れることを示しました。破産免責による債務消滅の効果は包括的であり、保証人にも影響を与えるため、債務の消滅を補完するための時効援用が不要であると判断したのです。
この判例は、破産法および保証制度における実務的な扱いを示す重要な判断とされています。
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