処分性(行政書士試験対策)

令和5年度 問19(行政書士試験過去問)

行政事件訴訟法が定める抗告訴訟の対象に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。

1.登録免許税を過大に納付して登記を受けた者が登録免許税法に基づいてした登記機関から税務署長に還付通知をすべき旨の請求に対し、登記機関のする拒否通知は、当該請求者の権利に直接影響を及ぼす法的効果を有さないため、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない。

    答えはクリック

    誤り


    (チャットGTP)
    設問における「登記機関のする拒否通知が抗告訴訟の対象となるか」に関し、最判平成17年4月14日は以下のように判示しています。
    登録免許税法31条2項は、還付を簡易迅速に受けられる手続を保障しており、登記機関の拒否通知はこの権利を否定する法的効果を有するため、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当します。したがって「妥当でない」との解答が正当です。

    1. 法的効果と抗告訴訟の関係性
    (1) 行政処分の定義を理解する
    行政処分とは、行政庁が法の規定に基づき、国民の権利義務に直接具体的な影響を及ぼす行為を指します。
    例:許認可の拒否や取消、行政命令、今回のような還付拒否通知。
    重要なポイントは、「直接かつ具体的に権利義務に影響するか」という点です。

    (2) 本件が行政処分とされた理由
    登記機関の「拒否通知」は、登録免許税の還付を受ける手続(簡易迅速な還付手続)を否定するものです。
    これにより、申請者はその権利(還付手続を利用する地位)を失うため、「直接的かつ具体的な権利侵害」が発生すると認定されました。
    よって、拒否通知は「行政処分」に該当し、抗告訴訟の対象となります。

    理解のコツ:
    「行政処分」の要件に照らして、「直接影響」「具体的権利侵害」「法的効果」を分解して考えることで、本判例の適用を明確に理解できます。

    ※本件は行政事件訴訟法の取消訴訟で認容判決となる。

    【登録免許税還付拒否事件 判決文】

    平成28年度 問19の1(行政書士試験過去問)

    保育所の廃止のみを内容とする条例は、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童およびその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができる。

    答えはクリック

    正しい


    (チャットGTP)解説

    この問題は、行政法における処分性についての理解が問われています。行政法上、「処分」とは行政庁の行為で、特定の個人の権利や義務に直接的な影響を与えるものであり、行政不服審査や取消訴訟の対象となります。
    本問では、「保育所の廃止を内容とする条例」が、特定の保育所の廃止という結果を直接生じさせるため、その保育所に通う児童やその保護者に対して直接的に影響を与えます。具体的には、保護者や児童は「その保育所で保育を受ける」という法的な利益や地位を失うことになります。このように、条例の制定行為自体が特定の人々に対して直接的な影響を与え、実質的に行政庁の「処分」と同様の効果を持つと判断される場合、それは処分性を有すると解されます。

    横浜市立保育園廃止処分取消請求事件
    1.事件の概要と処分性 「横浜市立保育園廃止処分取消請求事件」は、行政法の処分性について理解を深めるうえで重要な判例です。行政書士試験対策として覚えるべきポイントを以下に整理します。

    覚えるべき内容:
    ・横浜市が制定した「保育所廃止条例」により、市立保育所が廃止され、そこで保育を受けていた児童とその保護者に直接的な影響が生じた。
    ・本件での争点は、「条例制定行為」そのものが処分性を持つかどうかでした。

    試験対策ポイント:
    ・「行政処分」とは、特定の者の権利・義務に具体的な影響を及ぼす行為を指し、取消訴訟の対象となる。
    ・「条例制定行為」も、場合によっては処分性が認められる可能性があると理解しておきましょう。

    2.最高裁の判断
    ・最高裁は、横浜市の保育所廃止条例について、**「特定の個人(児童と保護者)に直接的な法的地位の変動をもたらす」**ものと判断し、処分性を認めました。
    ・最高裁は、「条例制定行為が行政処分と実質的に同視しうる場合、取消訴訟の対象となる」との判断基準を示しました。

    試験対策ポイント:
    ・処分性の範囲について、「横浜市立保育園廃止処分取消請求事件」の基準を理解し、一般的な立法行為との違いを明確にしておくことが大切です。
    ・行政書士試験では、この判例の基準を応用した出題が考えられるため、「個別具体的な権利への影響があるか」が処分性の判断基準になることを覚えておきましょう。

    3. 判例の意義
    覚えるべき内容:
    ・行政法において、「処分性」があるとされる行為は、取消訴訟などの対象となるため、行政救済の重要な対象です。
    ・この判例は、条例などの立法行為であっても、特定の人に直接かつ具体的に法的地位を変動させる場合は、処分性が認められるとする基準を示しています。

    試験対策ポイント:
    ・処分性の範囲について、「横浜市立保育園廃止処分取消請求事件」の基準を理解し、一般的な立法行為との違いを明確にしておくことが大切です。
    ・行政書士試験では、この判例の基準を応用した出題が考えられるため、「個別具体的な権利への影響があるか」が処分性の判断基準になることを覚えておきましょう。

    覚えるべき判例のポイントまとめ
    事件名:「横浜市立保育園廃止処分取消請求事件」
    争点:条例制定行為の処分性
    最高裁の判断:特定の個人に直接かつ具体的に影響を与える条例制定行為は、処分性を有する
    意義:一般的な立法行為でも、処分性が認められる場合があることを示した判例

    この事件の処分性に関する基準とその適用例を覚えることで、他の行政行為に関する処分性の判断にも役立てられます。


    Q 横浜市立保育園廃止処分取消請求事件では、保育所廃止の最、保護者はどんな訴えをしたのですか
    A 「横浜市立保育園廃止処分取消請求事件」において、保育所の廃止が決定された際、保育所に通っていた児童の保護者たちは、以下の訴えをしました。

    保護者の訴えの内容
    保護者たちは、横浜市が制定した「保育所廃止条例」により、保育所が廃止されることで、子どもがそれまで受けていた保育サービスが突然打ち切られ、保護者と児童の法的利益が侵害されると主張しました。そのため、保護者たちはこの条例による保育所の廃止が無効であるとして、条例の効力を争う取消訴訟を提起しました。

    保護者の主張の要点
    保護者たちの主張は以下のようなものでした。

    ・法的な地位の侵害:保育所に通う児童とその保護者は、八幡市の保育所で保育を受け続けるという法的利益を有しており、この利益が条例によって直接的に奪われる。
    ・処分性の主張:保育所廃止の条例が、特定の児童とその保護者に対し、直接的に権利や法的地位の変動を生じさせるため、行政処分として取消訴訟の対象となるべきである。

    最高裁の判断
    最高裁は、保育所廃止条例が特定の保護者と児童に直接的に影響を及ぼすものであるため、処分性が認められるとし、保護者たちが条例の取消しを求めることができると判断しました。

    この訴えの意義
    保護者たちが主張した「条例制定行為に対する処分性の確認」は、行政法における処分性の範囲を広げる判断を示すものとして、以後の行政訴訟にも大きな影響を与えることになりました。この判例により、条例や規則の制定行為でも、個別具体的に権利に影響を与える場合には処分性が認められる可能性があることが明確になりました。


    Q 執行停止の申立はしなかったのですか?
    A「横浜市立保育園廃止処分取消請求事件」では、保護者たちは執行停止の申立ても行っています。

    執行停止の申立てについて
    保護者たちは、保育所の廃止によって子どもが保育を受ける場所を失い、その影響が大きいことから、訴訟中に保育所の廃止の効力を一時的に止めるための執行停止を求めました。執行停止が認められると、裁判が続いている間は廃止の効力が一時的に止まるため、保育所の廃止が延期され、児童は保育を継続して受けることができる可能性がありました。

    執行停止の認容
    裁判所は、保護者の申立てを認め、執行停止が認容されました。これにより、訴訟の決着がつくまでの間、保育所の廃止の効力が一時的に停止され、子どもたちは引き続き保育所を利用することが可能となりました。

    執行停止の意義
    この執行停止の認容は、行政処分により重大な影響を受ける当事者が、その影響を避けるために訴訟中の一時的な救済を求めることができる点で、執行停止制度の重要性を示しています。行政法における執行停止制度は、取消訴訟などの審理中に被処分者が不利益を被ることを防ぐために存在しており、特に子どもや高齢者といった影響を受けやすい立場の人々にとって重要な救済手段となります。

    Q 訴えの利益がなくなったのに却下ではなく棄却のなったのはどうしてですか
    A 「横浜市立保育園廃止処分取消請求事件」において、訴えの利益がなくなったにもかかわらず「却下」ではなく「棄却」になった理由は、次のような裁判手続き上の違いに基づきます。

    1. 「却下」と「棄却」の違い

    却下:裁判所が訴えの適法要件を満たさない場合に行われ、訴えそのものが審理の対象とならない場合に適用されます(訴えの利益が当初からない場合など)。

    棄却:訴えの内容を審理した結果、請求自体に根拠がないと判断した場合に行われ、請求内容についての判断が行われます。

    2. 本件での「棄却」の判断理由

    この事件では、保育園の廃止が決定された後に代替措置が講じられたため、訴えの利益が失われたと判断されましたが、裁判所は訴えの内容について一定の審理を行い、その上で「廃止処分の取り消しを求める請求自体に根拠がない」として棄却しています。

    したがって、裁判所は、訴えを形式的に却下するのではなく、訴えの内容について実質的に判断を下したため、「棄却」の形をとったのです。

    Q 上の代替措置とはなんですか
    A 「横浜市立保育園廃止処分取消請求事件」での代替措置とは、横浜市が市立保育園を廃止した後、保護者や子どもたちの保育の継続を確保するために講じた以下のような対応策を指します。

    1. 民間保育施設の利用支援

    横浜市は、廃止する市立保育園に通っていた子どもたちが新しい保育施設にスムーズに移行できるよう、民間の保育園や他の保育施設への転園をサポートする措置を行いました。また、入園調整や保育料の調整、補助金の提供なども検討されました。

    2. 代替保育施設の確保

    廃止された市立保育園の代わりに、近隣地域において保育サービスを提供する他の施設を確保し、元の保護者や子どもが不利益を被らないような配慮がなされました。これにより、保護者が新しい保育先を確保しやすくなるような体制が整えられました。

    3. 保護者への相談・サポート体制の充実

    廃止決定に伴い、保護者の不安を軽減するための相談窓口が設けられ、転園先に関する情報提供やアドバイスが行われました。また、子どもが新しい環境に適応できるよう、心理的支援や適応支援も検討されました。

    これらの代替措置により、裁判所は「保育の確保」という原告の利益が一定程度実現されていると判断し、訴えの利益が失われたと見なしました。

    Q 執行停止されたのではないですか
    A ご指摘のとおり、「横浜市立保育園廃止処分取消請求事件」では、一時的に執行停止が認められたことがありました。この執行停止により、保育園の廃止決定が一時的に停止され、当面の間、保育園の運営が継続されることになりました。

    執行停止が認められる要件として、原告に重大な不利益が生じる可能性がある場合や、緊急性がある場合に認められることがあります。このケースでも、保護者や子どもたちがすぐに新しい保育施設を見つけることが難しく、重大な不利益が生じる恐れがあると判断されたため、執行停止が認められました。

    しかし最終的には、横浜市が執行停止期間中に代替措置を講じ、子どもたちが他の保育施設に移行できるような支援策を整えたことで、訴えの利益が失われたと判断され、訴えが棄却されることとなりました。

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