地方公共団体が条例で租税を課すとは

地方公共団体(都道府県や市町村など)が租税を課す(地方税)ことはできますが、その根拠は国が定めた法律(地方税法)と、地方自治体が定める条例の組み合わせに基づいています。

​国税の課税は憲法第84条の「法律」による租税法律主義に厳格に従いますが、地方税については、地方自治の原則との関係で、以下のような**「地方税条例主義」**という特別な形をとっています。

​1. 地方税の課税の根拠

​地方税の課税は、以下の2段階の根拠によって成り立っています。

根拠内容
国の法律の定め地方自治法(第223条)と地方税法が、**「地方公共団体は地方税を賦課徴収できる」という一般的な権限(枠組み)**を定めています。
条例の定め地方税法は、地方公共団体に対し、具体的な税目、課税客体、課税標準、税率など、賦課徴収に必要な事項を条例で定めなければならないとしています(地方税法第3条)。

したがって、地方税が課税される最終的な根拠は、その地方議会で制定された条例になります。これは、地方自治体の住民代表による議決(条例)に基づいて、住民の負担を定めるという、**地方自治(住民自治)**の精神を反映したものです。

​2. 法定税と法定外税

​地方税には、国の法律である地方税法で定められている法定税と、地方自治体が独自に新設できる法定外税があります。

区分内容根拠と制限
法定税地方税法に税目(住民税、固定資産税など)が定められている税。課税の詳細は条例で定めますが、地方税法の枠内でなければなりません。
法定外税地方公共団体が、地方税法に定められていない独自の税目を新設する税。条例で定めることができますが、地方税制全体の整合性を保つため、総務大臣の同意が必要とされています。

このように、条例は地方自治体が税を課す上で、非常に重要な役割を果たしています。この仕組みを地方税条例主義と呼び、憲法第84条の租税法律主義を、地方自治の趣旨に沿う形で具体化したものと解されています。

地方公共団体が条例で課すことができる租税の限度は、税目(税金の種類)によって異なり、主に「制限税率」という形で国の地方税法によって定められています。

​地方税の税率は、以下の3つのパターンに分かれます。

​1. 標準税率と制限税率がある税目(超過課税が可能)

​多くの主要な地方税については、地方税法が以下の2つの税率を定めています。

税率の名称内容課税の限度
標準税率地方公共団体が通常、財政上採るべきとされている税率。原則はこの税率を適用します。
制限税率標準税率を上回って課税できる上限(キャップ)。地方公共団体は、条例で標準税率を超えた税率(超過税率)を定めることができますが、制限税率を超えることはできません。

【具体例】

税目標準税率制限税率(上限)
法人住民税(法人税割・市町村分)法人税額の約6.0%法人税額の約8.4%
不動産取得税4%制限

地方公共団体が財政上の必要や独自の行政サービスのために、標準税率を超えて課税することを超過課税と呼びますが、この超過課税は制限税率の範囲内でしか行うことができません。

​2. 標準税率のみが定められている税目

​一部の税目では、地方税法が標準税率のみを定めており、制限税率は設定されていません

この場合、理論上は条例で標準税率を超えて課税することも可能ですが、地方自治法の**「法令の範囲内」**という制約や、国民の租税公平主義の要請から、過度な超過課税は困難とされます。

【具体例】

  • 個人住民税の所得割: 標準税率は一律10%(都道府県民税4%、市町村民税6%)。多くの自治体がこの標準税率を採用していますが、制限税率の定めはありません。

​3. 法定外税(独自の新税)

​地方公共団体が、地方税法に規定されていない独自の税目(法定外税)を条例で新設する場合の課税額は、特に制限税率はありません。

​ただし、新設にあたっては、以下の厳しい条件を満たす必要があります。

  • 地方税法の枠を超えないこと。
  • 国の税や他の地方公共団体の税と重複しないこと。
  • 総務大臣の同意を得ること。

​この同意の審査において、税額の妥当性や公平性がチェックされることで、実質的な課税の限度が設けられています。

​まとめると上限は、税金ごとに地方税法で個別に決められているか、総務大臣の同意によって実質的に制限されているということになります。

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